EWIというと、T-SQUAREを思い浮かべる人が多いようです。ウィンドシンセサイザーの歴史はリリコンから始まっており、あの音に憧れてEWIを始める人がかなりいます。
実際、WEB上でも「伊東たけしさんの音色完全コピー」とか「宮崎さんの音」といった音源や演奏動画がたくさん見つけられます。
T-SQUAREといえば伊東たけしのリリコン or EWIといったイメージが強いためか、伊東たけし氏が抜けた後も、後任で入ったサックス奏者、本田雅人氏、宮崎隆睦氏はEWIを使ってます。
でも、これはうがった見方かもしれませんが、彼らは本当にEWIが好きなのだろうかと疑問に思ったりもします。
宮崎氏がEWIについて「スクエアに入ることになって、この楽器を始めたけれど、最初は本当に戸惑った」といったことを語っている動画を見たことがあります。それは本音だろうなと思いました。
サックスを吹きこなせる人が、なぜわざわざEWIをやらなければいけないのか?? 私だったらやらないだろうと思うのです。
ホーンの音色で演奏したり、バリバリのアナログシンセサイザーの音でやるのであれば、本物の管楽器やキーボードシンセサイザーでいいはずです。フュージョン系のタイトなリズムセクションをバックにして音を立たせるためにはどうしてもバリバリ、キラキラの音色で目一杯吹きまくらなければならないわけで、ブレスによるコントロールや微妙な音色変化といったEWIならではの面白さ、魅力が出しづらいのではないでしょうか。
管楽器のシミュレーターとして使うなら本物の(生の)楽器を演奏したほうがいいじゃん……というのは、EWIをやっていくうちに必ずぶつかるジレンマです。
もちろん、自分はそれができないからEWIを使うわけですが、所詮玩具だろ、というレベルで終わるのは悔しいですし、追求していく意味が見つけにくくなります。
私もさんざん迷いましたが、Ariaのヴァイオリン音源で録音してみたとき、「いや、EWIでやる意味はある」と確信できるようになりました。
EWI4000Sの内蔵音源はよくできていますが、録音するとしょぼいです。これなら本物の管楽器を使ったほうがずっといいじゃん、という感じになります。
後継機種EWI5000は、さらにしょぼくなりました。これは開発者がEWIの本当の魅力を理解せず、単に「いかに生楽器の音をリアルにシミュレートするか」という視点で開発したからでしょう。
似せれば似せるほど「本来の楽器の代用品」になってしまうということに気づいていません。
管楽器系の内蔵音色も、シミュレートがしょぼくて、EWI4000Sにあった独特のニュアンスや迫力が消えてしまいました。
ライブではまだいいのです。でかい音が出ますし、アンプから出てくる音を生で聴けば、それなりの息吹も感じられます。
でも、録音してしまうと途端に安っぽい、平板な印象になるのです。
しかし、EWI USBに付属してくるAriaのヴァイオリン音源をEWIで演奏すると、本物のヴァイオリンでは出ない、面白い表情が作れます。
私にとっては、サックスではスムースさ(なめらかさ)を出すのが難しいし、ヴァイオリンのような擦弦楽器では表現しきれない大振りなベンドや音の急速な上下の動きなど、EWIの得意とする奏法を追求していくことで、生楽器に負けない魅力が引き出せると感じています。これが私がめざしている「デジタル・ワビサビ」の目標です。
↑EWI USBに付属してくるAriaという音源ソフトの画面
そんなわけで、私がEWIという楽器に無意識のうちに期待していたのは、こんな雰囲気の(上のサンプルのような)↑ メロウでスムースな表現だということに、1年たって確信を持てるようになりました。
これをそれぞれ、サックスやクラリネット、ヴァイオリン、チェロだと思って聴いてはいけません。なんの先入観も持たず、ただ「音楽作品」として聴いてもらえるようになったとき、EWIによる音楽は初めて世に認知されたことになるのかな、と思います。
ちなみにAriaの音源は、今では64ビット版がWEB上から誰でもダウンロードできるようになりました。これにより、MacOSのCatalina以降でも問題なく録音可能です。
EWIと外部音源
EWI4000S、5000、SOLOは、音源が内蔵されていて、独立した楽器として使えることが最大の魅力です。カシオのデジタルホーンを例外として、従来のウィンドシンセサイザー(リリコンやYAMAHAのWX)は必ず本体とは別に外部音源が必要でした。それがいらなくなったということだけで、演奏する際の「気持ち」が軽くなるのですね。
トランスミッターを使ってワイヤレス化すれば、さらに自由度が高くなります。ステージから客席に降りていって演奏するなどということも可能です。
しかし、EWI吹きの人たちからはよく「EWI4000Sの音源は、以前のアナログ音源に比べると線が細い」といった声を聞きます。
そうなのかな、と思って、EWI3000mという2代目の音源を購入してみました。これは完全なアナログシンセサイザー音源です。しかし、シンセサイザー音源として考えれば確かにアナログ音源らしい味がありますが、私は今のところ、EWI4000Sに内蔵されているデジタル音源のすっきり感のほうがむしろ使いやすいかな、とも感じています。
いくつかの外部音源を試してみると、ますますEWI4000Sという楽器はよくできた「独立した楽器」なのだということが分かります。
いわゆるリリコン的なきらびやかで派手な音が好きな人は外部のアナログ音源を使うことを考えてもいいのでしょうが、自分としてはあの系統の(派手目のシンセっぽいギラギラの)音は好きではないので、ライブではほとんど内蔵16番をカスタマイズした音しか使っていません。1番もまあまあいいのですが、オーボエやソプラノサックスが好きな私としては16番がいちばん気に入っています。
エディットするとすれば、オクターブ下の音を重ねる割合をほとんど気づかれないくらい薄くして、オクターブキーで演奏したときの音を違和感なく太くするという程度でしょうか。
それ以上いじっていくと、どんどんアナログシンセサイザーっぽく(リリコンっぽく)なってしまって、私としては面白くありません。(もちろんこれは完全に好みの問題ですので、ご自分の好きな音色を追求してください)
一方、デジタルワビサビ路線はEWI4000Sの内蔵音源では難しいので、アナログシンセサイザー的なものとは別の外部音源に頼るしかなくなります。
EWI USB はまさにそれを形にしたものでしょう。私も、Ariaという音源ソフトを試したいために、EWI USBを後から購入してみました。
結論としては、Ariaはなかなか面白い音源です。
ただし、この音源ソフトは、サックスなどの本来EWIが得意としそうな管楽器系の音源が軒並みしょぼいのです。
これなら本物のほうがよほどいい。本物に負けてしまうなら、使っていても惨めになる……という感じなのですね。
例外は、上のサンプルで紹介しているヴァイオリン音源(TH)でした。
Violin(TH)は、ヴァイオリンのシミュレートとしてもなかなかのものなのですが、EWIなのですから、シミュレートという発想はある程度捨てないと辛くなります。むしろ、ヴァイオリンにはできない奏法、音色を引き出すくらいの気持ちでやったほうが、EWIの潜在能力が引き出せると思います。
あとはTubaやとフリューゲルホルン系統の音が面白いですね。なぜかホルンやトランペット、トロンボーンなどはちゃちで使う気がしません。
YAMAHAのWXをちょっと試したときに感じた違和感は、「外部の音源をMIDIで鳴らすための道具」という感触が強くて、ひとつの独立した楽器としての一体感を得られにくいことでした。
EWI4000Sや5000を完全なMIDIコントローラーとしてAria音源を鳴らす場合も同じことをやっているわけですが、Ariaは違和感なく使えます。
改めて思うのは、ウィンドシンセサイザーをMIDI入力機として使う場合の音源は、ウィンドシンセサイザー専用に作られた音源じゃないと厳しいということです。SampleTankやKontaktなどの弦楽器サンプリング音源でも試してみましたが、やはりブツブツと音が切れたり、不自然なベンドになったりしてうまくいきません。これらの一般音源はキーボードで入力することを前提としているからです。
キーボードでは、キータッチによって音が入力されますが、EWIでは、最初の音はキータッチからではなく、キータッチと息が一緒になって初めて音が出ますので、キーに触っているだけでは入力になりません。そのせいで、キーボード用の音源だと、最初の1音が出ないのですね。
ですから、録音などで一般の外部音源を併用するとしても、キーボードで入力して、後からコンピュータ上でボリュームカーブなどを細かく調整・修整していくという作業のほうがうまくいきます。
上のサンプルにはオーケストラ音源が薄く後ろに入っているものもありますが、これはキーボードで入力しています。EWIで入力すると強弱などがリアルに出るかな、と思ったのですが、そうでもありませんでした。むしろブレスやエクスプレッションなどの信号が過密になって、音がスムーズに出てくれない感じです。
残念ながらウィンドシンセサイザー専用の外部音源は、あまり製造されていません。YAMAHAではWX5用にVL70-mという外部音源(ハード音源)を出していましたが、これも製造中止になっていて、今では中古を探すしかありません。
ただ、私自身はVL70-mの音はいかにも「シンセサイザーの音」という感じがして、触手が伸びません。
ローランドのエアロフォンの内蔵音源も同じ系統の音だと感じます。
SWAMというエンジンを使ったチェロの音源はかなり使えます。このページのトップにある動画はSWAMエンジンのチェロ音源で録音しています。
しかし、同じシリーズのViolaはチャルメラみたいな音で、どうにも使う気がしませんでした。
リアルを追求するとどうしても生楽器に比較されてしまい貧乏くさく聞こえてしまいますし、かといってデジタルデジタルしたシンセ音でとんがるとリリコン風のメタリックな音に近づき、ワビサビ感が限りなく薄れてしまうので、そこがジレンマです。
長くなりましたが、結論は、
- ライブでは、EWI4000Sを内蔵音源だけで使うのがいちばん気持ちよくプレイできる。EWI5000は音痩せが目立ち、ライブに向いていない
- MIDIコントローラーとして外部音源を鳴らすときは、ウィンドシンセサイザー専用音源でないとうまくいかない
- 「何かの楽器のシミュレーション」ではなく、EWIならではの表現力、音色を追求していくべき
- AriaのViolin(TH)は秀逸な音源であり、EWIの可能性を限りなく感じさせてくれる。SWAMエンジンのCelloもいい
……というのが、現時点での私の考え方です。
inMusic Brands Inc.への切なるお願い
AKAIというメーカーはずいぶん前に倒産して存在していません。その後、Akai Professionalというブランドはアメリカの inMusic Brands Inc. というベンチャー企業に吸収され、EWIシリーズも、実質、アメリカのinMusic社が開発を続けているようです。その日本支社がinMusic Japanという名称なんですね。
そこで
inMusic社にぜひ要望したいのは、
音源を入れ替えられるEWIを作ってほしい
ということです。
最初から100も200も内蔵音源を持つよりも、高品質な音源を数種類インストールできるようなものにしてほしいのです。EWI本体のメモリやCPUは、その高品質音源をしっかり再生するために使ってほしい。現在のCPUの性能、内蔵メモリの性能からすれば可能なはずです。
その際、
- 擦弦楽器音源は、1つの音色でコントラバス~チェロ~ヴィオラ~ヴァイオリンまでカバーできるバーチャル擦弦楽器音源として使えるようにする
- 同様にTuba音源も上にイングリッシュホルンなどの音源を追加して、ホルン系の超広域音源として使えるようにする
これが実現すれば世界最強のウィンドシンセサイザーとして一気にハイアマチュアやプロ演奏家に普及するでしょう。
ついでにハード的には、
- 背面のオクターブローラーをもっとしっかりした抵抗(油圧っぽい感触にして今のがたつきをなくす)のものに変更
- 5000のように完全ワイヤレスを実現するために無線送信機能を内蔵させる、あるいは専用無線化ユニットを別売する
の2点をお願いしたいです。
これらが実現したら、20万円でも30万円でも私は買います。
EWI5000のリポートは⇒次のページでどうぞ。